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馬場の演技の採点基準を示した馬場馬術ハンドブックには人の姿勢に関して、こうあるべきという内容が記述され馬の姿勢だけでなく人の姿勢も採点の対象となります。
馬術の練習はまず調馬索をまわしてもらいながら姿勢に関する号令を受け、人の姿勢を良くしていくことから始まるのが一般的です。
「前傾(後傾)しない」「下向かない」など様々な姿勢に関する号令をかけてもらい、ある程度のレベルに達したとみなされると調馬索がはずされ次の段階に進んでいきます。
正しい姿勢というものをとることが出来ると様々なメリットがあります。しかし正しい姿勢を求めていくなかで気を付けるべきことがあります。
その姿勢を「とらないの」or「とれないの」
「またかかと上がってるよー」。指導者の思い描くかくあるべきという姿勢と騎乗者の違いを指摘する号令です。かかとが上がる理由は様々考えられます。馬上でバランスが取れていない、馬に引っ張られて身体が浮いてしまっているなど。
このような姿勢に関する指摘に対して騎乗者が持つ問題が技術的な問題なら、その注意をし続ければ解決に一応は向かうと思います。なので、意識さえすればやれないことはありません。しかしそれが身体的な問題であれば、指導者が声を枯らしても解決できません。
騎乗者の身体的な問題
身体的な問題としては、体型、筋量などが原因となる力の出力不足、柔軟性の不足の三つが考えられます。
一つ目の体型に関しては、主に鞍の形・鐙の長さと体型との不一致によって起こりえるものですので、鞍を変えたり、鐙の長さを調整すれば、基本的には良い姿勢を取ることができます。
二つ目の出力不足は、馬の状態いかんによってどうしても必要となる力の出力量がありますので、筋量を増やすしかない場合があります。
三つ目の柔軟性の不足は少しやっかいです。体型と出力不足の問題と比べ、柔軟性の不足は技術的な問題と区別がつきづらいからです。
見た目に分かりにくい柔軟性の不足
例えば、騎乗者のかかとが上がってしまうことに対して、体型の不一致と指導者が考え鐙の長さを調整するというアプローチをし、馬が止まっているときには一見無理がなくなったように見えても、馬の動き出しに伴いまたかかとが上がってしまったとします。このとき、騎乗者も指導者も技術的な問題と思ってしまうことがあるのですが、柔軟性の問題も関わっている場合もあるのです。
柔軟性の不足が間違いなく問題の場合があります。正しいと言われる姿勢を馬が止まった状態でとった時に、すでに身体のどこかに柔軟性の不足による緊張がある場合です。もし緊張があれば、馬が動き出したらとてもそれを維持することが出来ません。
筋肉などをゆっくりと伸ばす静的な関節可動域より、急激に伸ばす動的な関節可動域のほうが小さくなるためです。なので正しい姿勢を馬が止まった状態でとった時、身体に緊張がないかは確認すべきです。そして緊張があるのであれば柔軟性の向上が必要です。
正しい姿勢を身体的に「とることができない」可能性がある。そのことを頭に入れておくことが大事です。特に柔軟性は自分を基準に考えがちなので、指導者は注意が必要と思います。例えば、立った状態から前屈して床に指が届かない人に「床に手のひらをつけろって言ってるでしょ」と怒っても仕方ないのは明白です。しかし、それに近いことを騎乗者に求めてしまっているかもしれません。
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