「前を見て~」の号令~情報処理の観点から思うこと~

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下を向く騎乗者に対して、「下を見ないよ~」、「前を見る~」。「遠くを見て~」と前を向かせようとする号令をよく聞きます。下を向く理由としては、初心者であれば自分の下で何が起きているのか分かると安心だからということが考えられます。一方、乗りなれてきた人であれば、自分の働きかけに対して、馬の体勢がどのようになっているかを見ている、などが理由として考えられると思います。

初心者が安心のために下を見るのは仕方ないと思います。しかしある程度乗りなれてきたら、前を向くことが大事だと考えています。姿勢という観点でもそうですが、情報処理の速さという観点でも利点があると考えています。

 馬の状態の把握と出力

馬に対して受動的に働きかけるときは、馬の状態の変化を把握する→出力をする、という流れになると思います。

馬の状態を把握するために、視覚情報と体性感覚情報の二つから主に情報を得ます。体性感覚情報は大雑把に言えば、手綱による馬の口とのコンタクト、シート(身体が鞍、馬体に接している部分)、鐙により得られる感覚情報です。

ここからが問題です。下を向いているか、前を向いているかによって情報処理の時間が変わる可能性がある、つまり入力(馬の状態の変化)と出力(諸扶助)の間の時間が変わる可能性があるのです。

 視覚情報と体性感覚情報の情報処理

視覚情報→運動の出力の神経系の処理は、体性感覚情報→運動の出力の処理と比べ時間がかかるという研究結果があります。また、脳での認知的な処理が少なくなる自動化された運動(考えなくてもできるような運動)では特に顕著に処理の違いにより時間の差は表れると考えられます。

 前を向くことの利点

下を向いているとき、馬の状態が変化するとさきほど述べた二つの情報が得られます。このとき視覚情報を優先した情報処理を行う(例:馬が外を向いたのが見えたから、内に向けるよう運動出力する)場合では、体性感覚情報を優先した処理(例:馬が外を向いたと感じたから、内に向けるよう運動出力する)と比べ入力に対する出力の時間がかかると考えられます。入力に対する出力のタイミングが遅くなれば、それだけ大きな力を使う必要があります。

前を向いていれば、馬をみる=視覚情報を得ることが難しくなり、自然と情報処理が速い体性感覚情報で処理を行うため、使う力も小さくなります。

ただ、自分の扶助で馬を動かすという段階になったときに最初から前を向くことだけをしていると、馬の状態の変化や、出力した後に変化した状態を体性感覚により得ることができても、馬がどのように動いているのか分からない可能性があります。

なので、前を向くことを目指すとき、その過程では下を向いていても良いと思います。馬の動きの変化や、扶助を出した後の変化を、視覚情報と体性感覚情報の両方で理解してすり合わせ、徐々に体性感覚情報のみで状態を把握し扶助を出すようにするという流れが良いと思います。

入力に対して素早く処理ができる体性感覚情報を使って扶助を出せるという点で、前を向くことに利点があるのでは、という話でした。 *チラチラ下をみるのはどの時期でも許容されると思います。

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  1. ワイも視覚情報は大事だと思ってて、調馬索で乗せてる時なんかは時々下見て馬のどっちの脚が前に出てるのか確認しろとか言ったりしますね
    ただ下を見続けてしまうと姿勢の乱れもそうだけど特定の点を凝視することにより人体に緊張が生じる(これたぶん結構良くない)のでその辺は気をつけていきたいものです

    1. コメント頂きありがとうございます。
      そういう視覚情報の使い方が馬の動きを理解していく上で大事ですね。
      そうですね。下を向かずに前を向くことで、一点を凝視せず全体をみることにより身体を緊張から開放する。センタードライディングのなかで書かれている基本のひとつ、ソフトアイや、剣道などで使われる遠山の目付ですね。本文では書きませんでしたが、そういう利点もあると思っています。

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