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リズムはトレーニングスケールの6つの要素の最初に挙げられます。馬の運歩が常歩なら4節、速歩なら2節、駈歩なら3節でない状態では、練習を行っても効果はないと馬場馬術ハンドブックに記載されています。
例えば速歩のリズムは1、2、1,2…の繰り返しとなりますが、そのリズムの速さを表すテンポはどのくらいが適切なのでしょうか。馬術にしばらく親しみ馬の運動を見慣れてくると、運動を見ていてもなんとなく馬が焦っていて早いな、怠けていて遅いなという感覚がでてくると思います。では、これくらいが適切な気がする、という感覚の時のテンポとは。この疑問の答えをCentral pattern generator(CPG)と呼ばれるメカニズムの存在から少し考えてみたいと思います。
Central pattern generator(CPG)のこと
昔、ネコの歩行に関する研究で行われたある実験で、脳の一部を除したネコをトレッドミルに乗せてトレッドミルを動かすと一定のパターンで歩くことが観察されました。この結果から、ネコには神経回路の脳以外の脊髄の部分で動きのパターンを作り出すメカニズム(CPG)があると考えられました。またその後おこなわれた実験では、ヒトや馬、その他の生物にも同じメカニズムが存在する可能性が示されています。
例えば、普段歩くときに、1、2、1、2と考えながら歩かないですし、ご飯を食べているときも噛むテンポに意識を向けないですね。これは歩こう、噛もうと脳で考えたらあとは脊髄に存在するCPGを利用して動きのパターンを作っているためと考えられるのです。しかし、早歩きなどをするとCPGを利用することが難しくなります。
適切なテンポは
適切なテンポは結論から言えば、「落ち着いた状態の馬が作る、Central pattern generatorを利用できるテンポ」と考えています。ヒトが早歩きをすると動きがぎこちなくなるように、馬も焦って歩いていると動きがぎこちなくなります。馬が落ち着いた状態でCPGを利用できるテンポを尊重しながら、馬の動きを求め、調教を進めていくことが大事になると考えています。
馬の能動的なテンポでなく、ヒトが作るテンポで動かそうとするとなにが起きるか。例えば、ヒトが馬を前に出そうとしてテンポを速くするとどうなるか。馬はCPGを利用することが出来ず、動きのパターンに注意しなければならなくなると考えられます。
そして、それ以外に考えなければいけないこと、例えばヒトの扶助への反応や障害の踏切位置の推定などに注意を向けることが難しくなります。結果として調教も進まず、さらにひどい場合は注意の容量を超えた要求をされることで頭がヒートアップし、暴走したりヒトを落としたりしてそれから逃れようとすると考えられます。
「落ち着いた状態の馬が作る、Central pattern generatorを利用できるテンポ」を尊重する。当たり前のようなことに結局収まりました。
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感覚と理論の橋渡し、運動科学面白いですやなぁ〜
コメントありがとうございます。
そんなにたいそうなものでないですが、面白く読んでいただけるとありがたいです。